SDGsを核とした英語科PBL:探究学習で世界課題解決に貢献する実践ガイド
高校現場において、生徒が主体的に学び、実社会で通用する能力を育む教育への期待が高まっています。特にグローバル化が進む現代において、世界が直面する課題を理解し、その解決に向けて行動できる「世界市民」の育成は喫緊の課題です。本記事では、SDGs(持続可能な開発目標)を核としたPBL(プロジェクト型学習)を高校英語科の授業に取り入れ、生徒の探究心と英語による発信力を同時に高める具体的な実践方法について解説します。
SDGsとPBLの融合:高校英語科で取り組む意義
SDGsは、貧困、環境、人権など、地球規模の課題を網羅した包括的な目標群であり、グローバル教育の具体的なテーマとして非常に有効です。これを英語科の授業にPBLとして導入することは、以下のような多面的な意義があります。
- 英語学習の目的意識の向上: SDGsの課題解決という明確な目的を持つことで、生徒は英語が単なる教科科目ではなく、世界とつながり、自己の意見を表現し、他者と協働するための「ツール」であると認識します。これにより、学習意欲の向上と実用的な英語力の習得が期待されます。
- 探究学習の深化: 生徒は自ら課題を発見し、情報を収集・分析し、解決策を考案し、発表するというPBLのプロセスを通じて、批判的思考力、問題解決能力、情報リテラシー、協働性を養います。これは「総合的な探究の時間」の目標とも深く連携します。
- グローバルな視点と倫理観の育成: 世界の多様な文化や社会状況に触れ、共感的な理解を深めることで、多角的視点から物事を捉え、倫理的な判断を下す力を育みます。
- 既存カリキュラムとの整合性: 英語科の「論理・表現」や「コミュニケーション英語」の目標達成に貢献するとともに、「総合的な探究の時間」におけるテーマ設定や発表活動と密接に連携させることが可能です。
カリキュラム設計の具体例とステップ
SDGsを核とした英語科PBLは、いくつかのステップを踏むことで効果的に実施できます。
1. テーマ設定と課題提起
- SDGs目標の選択: 生徒の興味関心や地域の課題と関連性の高いSDGs目標をいくつか提示し、グループごとに選択させます。例えば、目標4「質の高い教育をみんなに」、目標13「気候変動に具体的な対策を」などが考えられます。
- 課題の明確化: 選択したSDGs目標の中から、具体的な地域や社会が抱える課題を設定します。「私たちの地域で、若者が質の高い教育を受けられない原因は何か」「地球温暖化が、私たちの生活にどのような影響を与えているか」といった問いを設定し、探究の出発点とします。
2. 情報収集と分析(英語でのリサーチ活動)
- 多様な情報源の活用: インターネット上の英語記事、国際機関のレポート(UNICEF, WHOなど)、TED Talksなどの動画、英語圏のニュースサイトなどを活用し、多角的な情報を収集します。情報の信頼性を判断するスキルも同時に指導します。
- インタビュー活動: 必要に応じて、オンライン会議ツールなどを利用し、海外の専門家、NPO関係者、留学生などへの英語でのインタビューを企画することも有効です。質問リストの作成、質問、議事録作成といった一連のプロセスを英語で行うことで、実践的なコミュニケーション能力を養います。
3. 解決策の考案と英語での議論
- ブレインストーミング: 収集した情報を基に、課題に対する実現可能な解決策をグループでブレインストーミングします。この際も、英語での意見交換を促し、多様な視点からの提案を引き出します。
- 根拠に基づいた議論: 提案された解決策について、メリット・デメリット、実現可能性、倫理的側面などを英語で議論し、最も効果的なアプローチを絞り込みます。
4. 成果物の作成と発表
- 成果物の多様化: 解決策を具体的に示す成果物として、英語でのプレゼンテーション(PowerPoint, Google Slides)、ポスター発表、ウェブサイトのプロトタイプ、英語のレポート、啓発動画など、多様な形式を生徒に選択させます。表現の形式を選ぶ自由を与えることで、生徒の創造性を刺激します。
- 発表と質疑応答: 発表会を設け、他のグループや教員、時には外部の専門家や地域住民を招いて、英語で発表を行います。発表後の質疑応答も英語で行い、即興でのコミュニケーション能力を評価します。
5. 振り返りと評価
- 自己評価・他者評価: プロジェクト全体を振り返り、自身の貢献度、グループでの協働の様子、英語力の向上などを自己評価・他者評価します。
- ルーブリックの活用: 英語の表現力、内容の論理性、探究プロセス、協働性などを評価項目としたルーブリックを事前に提示し、評価の透明性を高めます。
実践アクティビティと指導のポイント
導入期のアクティビティ
- SDGsの理解を深めるワークショップ: SDGsの各目標について、英語のキーワードを用いて解説し、生徒自身が関心のある目標について簡単な英語で意見交換するアクティビティを行います。
- 世界課題に関する動画視聴とディスカッション: 環境問題や貧困、紛争など、具体的な世界課題に関する英語のドキュメンタリーやニュース映像を視聴し、感じたことや考えたことをグループで英語で話し合います。
指導のポイント
- 足場かけ(Scaffolding)の提供: 英語でのリサーチや発表に不慣れな生徒のために、段階的にサポートを提供します。例えば、リサーチ用のウェブサイトリストの提示、プレゼンテーションのテンプレート提供、表現集の配布などが考えられます。
- 異文化理解教育の併用: 異文化への理解を深めることで、SDGsが抱える多様な背景への共感を育みます。
- フィードバックの質とタイミング: 生徒の探究プロセスや英語表現に対し、具体的で建設的なフィードバックを適切なタイミングで与えることで、学習効果を最大化します。
他教科との連携と校内外リソースの活用
SDGsを核としたPBLは、他教科との連携により、さらに多角的で深い学びを実現します。
- 社会科(地理・歴史・公民): 貧困、格差、紛争、国際関係など、SDGsの背景にある社会構造や歴史的経緯について学ぶことで、課題理解を深めます。
- 理科: 気候変動、エネルギー、生物多様性など、環境に関するSDGs目標について、科学的な視点からアプローチします。
- 情報科: データ収集、分析、プレゼンテーション資料作成、ウェブサイト制作など、情報活用能力の育成に貢献します。
- 総合的な探究の時間: 英語科PBLの成果物を「総合的な探究の時間」の発表テーマとして活用したり、連携してより長期的なプロジェクトを企画したりすることも可能です。
校外リソースとしては、地域のNPOや国際協力団体、大学の専門家、企業関係者との連携も視野に入れます。オンラインでの交流や講演会、ワークショップなどを通じて、生徒が実社会とのつながりを感じられる機会を創出します。
まとめ
SDGsを核としたPBLを高校英語科の授業に導入することは、生徒が英語を実践的に活用しながら、グローバルな視点と課題解決能力を育むための強力なアプローチです。既存のカリキュラムとの整合性を保ちつつ、具体的なアクティビティや他教科連携を工夫することで、多忙な教員の方々でも着実に実践を進めることができます。生徒一人ひとりが世界市民として未来を切り拓く力を養うために、本実践ガイドが皆様の一助となれば幸いです。